【東京女子プロレス】彼女の夢の話
乃蒼ヒカリのデビューは2018年1月4日後楽園ホール大会。学生時代に東京女子プロレス(東女)に履歴書を送り、高木三四郎(大社長)から『卒業してからもう一度』と言われ夢を諦めかけたこともあったというが、紆余曲折ありつつも間違いなく2021年4月1日に彼女はその胸に抱き続けた夢の一端に手をかけた。
以前からデスマッチ志向が強く随所で発信も行ってきた中での興行。興行が4月1日だったことから「エイプリルフール」とTwitterの投稿もあった。
日程エイプリルフールだし……まだ正直実感湧いてないけど、ずっとずっと夢だったハードコアデビューが決まりました……乃蒼の新たな1歩ぜっったいに見逃さないでほしいです!!!!!!!! https://t.co/CGPJJHenxf
— 乃蒼ヒカリ Hikari Noa (@uug_p_hikari) 2021年2月21日
もちろん果てにはデスマッチが待っているだろうけれど、階段の一歩目としてデスマッチ団体ではない東女で考えられ、本人が望む形に一番近いのは間違いなくハードコア形式。
間違いなくノーDQになる。対戦相手は山下りな。いま日本マット界において世羅りさ選手と合わせハードコア/デスマッチの女子最強2大巨頭と表現して差し支えないだろう。山下はなにせ主戦場の1つにしているFREEDOMSの2月9日後楽園ホール大会でKFCタッグのベルトを藤田ミノルと共にビオレントジャック&マンモス佐々木組から奪取している。世羅りさ選手については調べて。
正直発表から約1カ月半をこんなに不安に過ごしたのはD王決勝ぶり。D王と違うのは勝つか負けるかではなく、コロナ禍で無事に開催されるのか、ハードコアで怪我欠場したらといった類の不安だった。
4月1日当日の興行はINSPIRATION(ひらめき、思い付き)とタイトルに銘打たれた通り、平日・夜・シングル3戦とこれまでにない実験的な興行だった。
第1試合で渡辺vs瑞希がまるでメインのような試合展開で観客のボルテージを上げたのは「メインにだけ注目されてたまるか、なめんなよ」といった心意気を感じるもの。エルボーの一発の重さやカウントを返す勢いはぜひ2度見て欲しい内容だった。対坂崎ユカ戦からすっかり見かけなくなっていた渦飴を抜いたのも、渡辺はもちろん観客を意識してだったのではないだろうかと思わずにはいられない。
第2試合は打って変わっ現プリプリ王者の辰巳リカの盤石な実力を垣間見た気がする。なにより際立ったのは受けの見事さ。
クッションつけててもヒップアタックは痛いだろ…そのくだりなかったら10分越えてなくない???
前試合が辰巳の勝利で終わり、勝利者曲が会場にヒットしている中粛々と若手によって運び込まれるパイプ椅子、凶器入りの箱、ベニヤ板…EntranceHell(大日本プロレス、デスマッチ準備の曲)じゃ駄目だったんですか…?
試合の序盤はオーソドックスなロックアップから。身長差12cmはジュニアvsヘビーの図を彷彿とさせるもの。力比べは間違いなく山下に分がある。
体重差は公表がないのでわからないものの、10~20キロはありそう。
約3年の3か月のキャリアで積み上げたものを出し切ってなお届かない領域があるのは間違いないものの、リングに所属事務所の在庫と思しきCDを撒き、痛めつけるように背中を執拗にローリングクレイドルでこすりつけていくのはさすがセンス。
力isパワー!パワー=正義!脳内がバグる山下りなの筋力。信じられないことに反動なしでコレ。
ちなみにこのベニヤさんは木曽さんによって4分割されてました。はかないね。
試合は山下優勢で進み、場外にセットした机へのファイヤーサンダーや雪崩式ブレーンバスターで順調に乃蒼を追い詰めていく山下。
獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすとはいうが、全力の中に潜む余裕があるのもまた魅力。
最後は熱中しすぎて写真を撮影しなかったのが悔やまれるが裏投げからパールハーバースプラッシュを投下。
山下に2で返され、キメ時とにらまれたかバックドロップ、ショートレンジラリアット、ロープに走ってのラリアットと畳みかけられ、2で返したものの乱雑に積まれたパイプ椅子へのスプラッシュマウンテンで勝負が決した。
同じアンチェインとして活動する山下にパールハーバーを決めた瞬間は、もしかしたら殺されるのではとよぎったものの、試合後マイクで山下は乃蒼を絶賛。
ガジェットを使えとアドバイスを送られたのは今後への期待が大きく込められていたように感じる。
まあまあ長くなった東女の中でハードコアと銘打たれた試合はこれが初。本興行で見られる日が来るのか、クリスブルックスプロデュース興行で試合が組まれるのが先かわからないけれど3年で辞めなかった今日があのリングにあった。
結びに、最後かけよった汐凛セナには乃蒼ヒカリはどう写ったのだろうか。自分もとハードコア/デスマッチに飛び込んでくれたら、いちファンとしてそう思わずにはいられない。
ハイパーミサオがハードコアへの憧憬を口にし、中島翔子は自らリングを無法地帯にする。東女でデスマッチアイドルたちが自ら旗をぶち上げる日はそう遠くないのかもしれない。キラキラ輝く場所が血に染まったリングなだけなのだから。